• 歳時記

絵と布の画廊歳時記 12年11月号

朴の葉や秋天高くむしばめる
──飯田蛇笏

児島善三郎|国分寺風景(森)|12号|個人蔵

児島善三郎《国分寺風景(森)》12号|個人蔵

 

武蔵野台地はほとんどが雑木林と開墾された新田に覆われたなだらかな丘陵地でした。
北西方面からみて、秩父から連なる山間地を出ると森と呼べるほどのところは、

現在トトロの森で有名になった狭山丘陵以外に大きな森は見当たりません。

この 絵が描かれたころからどんどん開発が進み雑木林も切り開かれ、

現在、緑が自然の形でのこっているのはグーグルの航空写真を見てもほんの僅かです。

そんな貴 重な森が我が家のすぐそばに今でもあります。

そこは国分寺崖線とよばれ、

国分寺から深大寺を経て田園調布の方までつながっている古い多摩川の河岸段丘の法 面です。

 

毎朝犬と散歩するコースになっているのですが、

急峻な斜面のせいで開発から逃れ、背の高い木々が天を覆うように枝を広げています。

昔はその森も今よりずっと広く深かったと思います。

この絵はおそらく間違いなくその森を描いたもので、他に未完の習作(左下)が一点残されています。

善三郎の画としては構図、色彩共にちょっと変わった感じを受けます。何より色調が暗いですよね。

きっと晩秋の夕暮れ近くなのでしょう。

 

習作|12号  国分寺崖線に残る森

左:習作 12号|右:国分寺崖線に残る森

 

次は、画面左側の楢か櫟に見える高木がほとんど平面的に描かれているのが不思議ですが、

それにはわけがあります。
他の木々は思いっきりデフォルメされていて、

いちばん右の空中に浮いているような木はまるで遊園地の絶叫マシンのように震動して見えます。

白の縁取りが加 速して、画面上半分はリズムを取りながらアフリカンビートを打っているみたいです。

静と動を極端な対比で見せている訳です。

こんなのは、なにか前衛音楽の 図形譜で見たような気がしてきました。

それと、もう一点変わって見えるのは、おなじみの小屋の形の人家が無いことです。

たいがい家や畑や田圃など生活の気 配が画中に織り込まれているものですが、

この絵ではその代わりに左の木の下に通り抜けられそうな小道が暗示的に示されています。

トトロが寝ている場所に通 じる小径みたいです。

常に表現の可能性に挑戦し続けた善三郎らしい意欲的傑作だと思い、

新画集では150点の名作選の中に入れました。

掲載の蛇笏の句もな かなか味わいがあり、この絵と深く通じているように思います。

天高くそびえた木々の梢のシルエットが

まるで毛虫や蚕が葉を食いちぎった後の穴凹だらけのよ うに見えたのでしょう。

鋭い感性まで透けて見えるようです。

 

|||| 今月の新着 |||||

児島善三郎|花|1959年|30号|第27回独立美術展出品

児島善三郎《花》1959年|30号|第27回独立美術展出品

 

||||| 苦言ひとこと |||||

さて、先月で「市場から」を終了致しましたが、新趣向を未だ見出せないでいます。

世の中あまり良いことは見当たらないし、

とりあえず身の回りのことでも、ぶつぶつとお伝えしようかと思います。お付き合いのほどお願い致します。

 

いきなりですが、何度目か覚えていませんが、また禁酒を始めました。

 

といってもまだ一週間しかたっていません、でも今回は成功しそうな気がします。

わが家 系は私の知っている限り、ほとんどが肝臓がんか肝硬変であの世に行っております。

小生も65歳になり、今迄に人様の何倍もお酒を頂いてきたような気も致し ますので、

この辺で年貢を納めようかなんて殊勝なわけじゃありませんが、

調子は悪いし、物忘れはひどくなるし、

なんといっても肝機能が衰えると気が短くな り怒りっぽくなるようで、

家でも外でも、ぶつかったり、ひっかかったり、何かとトラブルになるので自制しなきゃということです。

 

怒ったついでに苦言をひとこと……。
今、竹橋の東京国立近代美術館で開館60年を記念して「美術にぶるっ!!」という

変なタイトルの展覧会が開かれているようです。

サブタイトルは「ベストセ レクション 日本近代美術の100年」です。

この前の「日本の裸婦展」のときもそうでしたが、

掲載許可が来ないので善三郎作品は出さないつもりだなとすぐ分かりまし た。

あの「鏡を持つ女」があるのに。
そして今回もなにもないので、またかと思ったらやはり無視されました。

「アルプスへの道」や切手にもなった「雪柳と海芋に波斯の壺」など代表作が6点もあ るのに無視です。

独立美術では須田国太郎だけです。

全体をみても大変偏った、学芸員の好みを一般鑑賞者に押し付けるアナーキーな作品選びです。

どこが日本 近代美術の100年なんだろう。
ここでひとこと。
『これじゃあ!!「近美学芸員にぶるっ!! 東京国立もんだい美術館だぁ~!!」』おしまい。

 

||||| お詫びと訂正 |||||

先月号の記述の中でお詫びして訂正させていただく箇所が御座います。

芳名録の記事で會津八一の隣を東郷青児の署名と記しましたが、なんと鳥海青児の間違いでした。

発送した後すぐに、もっと前の方に東郷青児の署名を見つけてしまったのです。
何ともお恥ずかしいことで、お許しください。

 

||||| ご案内 |||||

絵画・お茶道具・古美術の売却、着物の整理など、ご相談下さい。
また、海外のオークションへのご出品やご購入のお手伝いも致して居ります。

 

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