• 歳時記

絵と布の画廊歳時記2015年5・6月合併号

空も地もひとつになりぬ五月雨   杉風

 

 

 

歳時記さみだれのころとりむ

児島善三郎「さみだれの頃」10号1938年

 

 

 

k00190_国分寺最初期風景10号とりむ

「国分寺風景」10号 1937年頃

 

「さみだれの頃」この作品は二度目の掲載となります。

調べてみるとついこの間と思っていたのが、なんと4年前の6月号でした。

その時は白黒写真で名作の「田植」30号と一緒に並べて、

モノクロでは解らない色調を見たい一心で「出てこい、出てこい」と念じています。

やはり、念ずれば花開くですね。

昨年の春頃だったと思いますが福岡の画商さんから、

法人から評価を頼まれた絵画類の中に善三郎の作品が有るが

一見よく分からないので写真を送るから見てほしいという依頼がありました。

送られて来た写真はガラス越しにケータイのカメラで撮られたのか不鮮明な写真でしたが、

まごうことなき「さみだれの頃」そのものでした。

灯台下暗しと言いますが、祖父の郷里のそれも生家からいくらも離れていない場所に所蔵されていたのです。

 

普通、評価を取るとなると売却を前提に考えているのかと思い、

現認や撮影の機会を逃したら大変と思いましたが、幸いそういう趣旨ではないとの事で、ほっとしました。
その後、幸いにも撮影の機会を頂き福岡へ出向きました。

金融関係の団体の理事長室で面会する事となりました。

紹介してくれた業者さんが気にしていた通り額 越しに見える表面はぺったりした感じでしたが、

それは汚れた無反射ガラスのせいで、その上、煙草のヤニがべったりと付いていていました。

これでは、評価どころか真贋の見極めも困難だったでしょう。

早速、額から外し撮影の準備にかかりました。

幸い大きな損傷や、黴に依る極端な劣化も無く経年並みの変化で収まっていて、まずは一安心でした。

初めて対面する作品とはいつも新鮮な緊張を持って対峙するものですが、

この作品とは思っていた以上のインパクトを持って向き合う事になりました。

 

この絵が描かれた1938年頃は新日本主義などと呼ばれる油彩画の東洋的回帰が盛んになり、

善三郎も池大雅や浦上玉堂、中国の石濤や八大山人などを 研究勉強して

自分の作品にも東洋画の技法や色彩を大胆に取り入れています。

この絵の色彩にも濃い群青と緑青の対比が強く表現されています。

代々木初台から移住して来て2年程が経っていますが、

国分寺の大きくて複雑な地形の四季折々の姿を捉えるのに苦労している様子が伝わって来ます。

もう一点の松を描いた絵の方も画集刊行後に出会った作品ですが

その辺りの事情を良く示していると思います。

他に「小径」「炎天」「山湖」など同様な 作風の代表作がありますが、

1940年の後半にはもっと穏やかな画風に移行し、

それ以降、自虐的冒険者のようにも見える強いデフォルメや色調の対比は見ら れなくなります。

それは、その後の日本全体が右傾化してゆくのと重なるようにも思えます。

 

 

新着コーナー

 

坂本馬水彩

坂本繁二郎 馬 水彩 24.8 x 28.8cm

 

何回も何回も下書きされた鉛筆の上に、

細い筆で色彩が施されています。

慈愛に満ちた名作です。

 

 

 

歳時記 朱銘 牛図とりむ

朱銘 牛図 水墨 48 x 63cm

 

台湾出身の彫刻家の水墨淡彩。近年高い評価を得ています。

 

山口薫 接触 
山口薫 Bookwork「接触」装丁 1954年 水彩 鉛筆

歳時記ウズベク長衣歳時記ウズベク長衣−1
ウズベキスタン 長衣二種

 

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