• 歳時記

絵と布の画廊歳時記2015年7月8月合併号

飛ぶ雲の皆向かひくる夏野かな    小杉余子

 

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児島善三郎「道草 (仮題)」10号1950年頃

 

Road to the Japanese Alps 1951 73.0x91.0cm

「アルプスへの道」1951年 国立近代美術館蔵

 

 

「おってぇ てんぷら つーないでこちゃん 野道をゆーけぇば〜♪」なんて声が絵の中から聞こえてきそうですね。

気持ち良く晴れた野中の一本道をみんなで歩いて行きます。

あれ!誰かが遅れているよ!

また、あいつに決まってら〜。しょうがねぇな〜、迎えに行って くるか〜なんてお喋りも聞こえてきます。

バッタでも見つけたのかどん尻の男の子はまだ未練たっぷりです。

描かれた場所は、確証はありませんが信州安曇野あ たりではないでしょうか。

 

 

アルプスを描くために昭和25年、26年と続けて信州を旅しています。

25年には「夏山」、26年には生涯の代表作になる「アル プスへの道」を完成させています。

おそらく、想う絶景を求めてのロケハン中に、こんな微笑ましい風景に出会ったのではないでしょうか。

まっすぐに続く道の 先には遠い山並みがうっすらと見えますが、

そこへ私たちを誘ってくれるのはぽっかりと浮かぶアイスクリーム色をした雲の塊と、

その下にながれるうろこ状の 雲の帯です。

道の両側には夏草が茂り、馬の背を追うように、これも私たちの目を最遠点へと導いてくれます。

なんて、気持ちが良いのでしょう。

道の左に一本 立つ杉のような大木は誇張されて、天を突く矢じりのように描かれ、

この絵全体の空気が大空に吸い込まれるのを防いでいるようにも見えます。

何気なく出会っ た田舎の風景がこんなにも大きな世界につながっているとは驚きです。

善三郎は独立した一本の木を大きく取り上げた絵を生涯に何点か描いています。

その大木は、いつも道の側に立っていたり、曲がり角にあったり、池の端 に立っていたりします。

雄大な物、悠久なるものに憧れを抱いていた善三郎は大木の立ち姿に自らを重ねていたのかもしれません。

創立に大きく関わった独立美 術協会を生涯愛し続け、

年展には亡くなるまで欠かさず出品し続けましたが、

長を戴かない同協会の中で大きな地位におりましたが、

常に指導的存在であったわ けでもありませんでした。

時には、独善に陥り一人周りを困らせたこともあったようです。

独立した大木に我が身をなぞらえる、

ドン・キホーテのような気概が 「アルプスへの道」のような前人未到の境地を作り出したのかもしれません。

そういえば、この道は「アルプスからの道」なのかもしれません。

 

新着コーナー

 

梅原龍三郎の1940年代の紙作品2点、秋の香港オークション出品用に。

 

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梅原龍三郎「狩野川富士山図」水彩 岩絵具 35.2x 24.9cm     梅原龍三郎「三津浜富士山図」1947年 水彩 岩絵具 64.4 x 43.6cm

 

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三宅克己 「伊豆風景」 水彩       児島善三郎 「農家の庭」 1946年頃

 

 

丘の上APT情報

 

*「丘の上APT野見の市2015 Summer」終了致しました(8月7〜9日)
丘の上APT初めての試みとして、「野見の市」と題して手作りの品を集めたマルシェを開催しました。
竹工芸や革細工、漆器や骨董品、アクセサリー、

絵画、アジア・アフリカの雑貨、福祉施設から出品された唯一無二の品々など、

大変ご好評頂き、盛況のうちに終了しました。
次回開催時期は未定ですが年に1〜2回開く予定です。

 

 

*「藤森照信−−多摩の住居群」たんチョコにらトタン展(10月2日〜11月1日)

藤森氏設計の個人宅およびアトリエに焦点を当てた展覧会です。

氏の設計である、丘の上APT(トタンの家)内に、

「たんぽぽハウス」を始めとした4軒の内 外観写真パネルやデザインスケッチ、マケットなどを展示。

また、3軒の藤森建築を巡り建物内部も見学できるウォークツアーも企画しており

藤森ワールドを満 喫いただける貴重な機会です。

ウォークツアーお申込みの詳細は9月に画廊ホームページでご案内致します。

 

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