• 歳時記

絵と布の画廊歳時記2018年3月4月合併号

アネモネのむらさき濃くして揺らぐなし  水原秋櫻子

 

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児島善三郎 アネモネ 8号 1954年

 

 

掲載のアネモネの絵は現在、たまたま私の手元にありますが、
長い間、赤坂にあった京都の老舗織物会社の役員室の入り口に
まるで来訪者を威圧する様な佇まいで掛かっていました。
その当時は世襲制のオーナー企業で、
当時の社長は叔父が経営する日本橋の画廊の上得意で、
よく画廊に遊びにいらしていました。
慶長大判の様に大きくて長いご尊顔の持ち主でいらっしゃって、
いかにも関西の大旦那さんといった感じでした。
画廊には社長専用のオールドパーがいつも用意されていて、
夕刻にお見えになる時は画廊で絵を見ながら何杯か召しあがって、
それからお座敷や銀座にお出かけになられたのではと思っております。
まだ、二十歳そこそこの小生は直立不動の姿勢でお相手をすることもありました。
画廊にとってはとても大事なお客様であったように記憶しております。
 
さて、アネモネの絵に話を戻しますが、
赤坂の会社にお遣いに行く度にこの絵を見るわけですが、
祖父の絵の中でも他の作品と違ったとても強い構築性を感じていました。
構図においても善三郎作品にしては珍しくシンメトリーで
ロールシャッハ・テストのように左右のバランスが等分されています。
その上、オランダの壺でしょうかS字型の把手が正面を守るかのようにアクセントを強くしています。
アネモネの花もてんこ盛りです。
普段は花と花の間に隙間を開けたり、左右を敢えてアンバランスにして、
その復元力を空間表現や立体感の演出に活かしたりするのに、
この絵では何もかもががっしりと描かれていてゴシック的です。
今思うと、そんなふうに見えるのが、
会社の中でまるで衛兵が城門を守っているような感じに見えたのかもしれません。
 
その後、随分長い時間が過ぎ、老舗企業も大手住宅関連企業の傘下に組み入れられたようで、
時代の流れに拮抗できずに新たな形で再生してゆく伝統文化の姿と
善三郎のギリシャやローマ時代を思わせる古典回帰の関係に
複雑な思いを抱かずにはいられません。
あわせて取り上げた秋櫻子の句と、
この絵のバックに使われている暗紫色とアネモネの花の関係が誠に絶妙に感じられます。

 

 


 

<画廊雑感>
 

年が明けてから、急に暇になったように思えます。
市場に行っても作品の数も質も価格も沈んだままで競りもあっという間に終わってしまいます。
大会と言われる年に2、3回の行事でも例年の半分ぐらいの時間と出来高です。
巷間では景気の持続が最長であるとか株が上がってきたとか言っておりますが、
全く実感がわきません。何かいやな感じが致します。
暇な時はなにか物を作っているのが精神衛生上も一番よろしいと思い、
木を彫ったり、人形を作ったり、襤褸を繕ったりして気を紛らわしております。
 
さて、3月初めから渋谷のアツコバルーさんと共催しておりました襤褸展は、
500名を超えるお客様にご来場頂き好評のうち無事終了いたしました。
BOROの人気を改めて実感したところです。
この後は5月に山田珠子さんという芸大大学院在学中のテキスタイル作家の個展や、
7月に行われる東京国立博物館の大縄文展に合わせて、
6月末からお盆休み前まで「縄文シャワー展示室展」を開催します。
その影響で例年8月に行っている「野見の市」はお休みにさせていただきます。
秋からもいくつか企画展を予定しております。
 


 

 

<新着コーナー>

 

松web
児島善三郎「松」油彩/キャンバス10号1936年
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ZZKいちぢくweb

児島善三郎「いちじく」油彩/キャンバス 3号 1954年
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劉生_竹林楽聖20x30.1
岸田劉生「竹林楽聖」着色水墨/紙 20x30cm 1923年
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キオッソーネ_歳時記
エドアルド・キオッソーネ パステル/紙 58x50cm 明治初期 (松方正義大蔵卿旧蔵)
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蒼風_歳時記
勅使河原蒼風 「無題」 木・銅・板 21x89x24cm
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