• 歳時記

絵と布の画廊歳時記 12年12月号

一平野一寒天の下にあり
──高野素十

 

児島善三郎|寒空|10号|1948年

児島善三郎《寒空》10号 1948年

 

「かんくう」と読んだ方がよいのか「さむぞら」の方がよいのか以前から悩んでいた絵です。

40年近く前に見たきりで、その後は一度もお目に掛かりません。

今も四国のどなたかのコレクションに収まっていることと思いますが、先は解りません。

結構好きな絵で、冬になると思い出します。寒色系だけで描かれた畠、 田圃、空は見ているだけで、

首をすくめ手を擦りあわせたくなるように、野良を渡る風の寒さが伝わってきます。

 

私が生まれた翌年、昭和23年の作ですが、

未 だ大地も人々も絶望の淵から立ち直っていないのがよく伝わってきます。

 

画面右手の墨染の袈裟のような樹塊が大気中の熱を奪ってゆく樹氷モンスターのように 見えます。

描法もそこだけ雪舟の水墨画風で、

この塊以外は結構具体的に書かれているので却って不気味さを強調しているように見えます。

また、善三郎の絵に しては珍しく西洋的遠近法が強調されていて、

手前の畑の線の焦点に巨大なそれがあるので視線は左に弾き飛ばされ、

そのまま画面中央の奥の方に吸い込まれて ゆきます。

ピンボールの球の動きのようですが、これも善三郎マジックの一つです。

昭和二十三年二月四日付国分寺よりの大久保泰氏への書簡に、

「正月から引 き続き古い画に次ぎ次ぎ手を入れています。

急によくなるのもあるし、中々思うようにいかないのもありますが、

焦らず機嫌を取るようにして手を入れ、手を入 れして居ります。

 

北海道から石炭が着いたので画室は暖かですが、

一か月以上アトリエに籠っていると少し倦気が来て旅行に出たい衝動にかられますが、

最近収 入がないので身動きできません」(抜粋)とあります。

前年の昭和22年には北海道に長期滞在したり、

そのあとすぐに九州へ行ったりと画境は進んだ代わりに 懐も体も相当疲れていたのではないでしょうか。

この絵も1940年頃のものに手を入れたのかもしれませんが、

この絵が出来たので2年後の昭和25年に名作 「春遠からじ」が完成したとも想像できます。

掲載の句の作者高野素十は善三郎と同じ1893年福島生まれで医師、水原秋桜子と親しく、

ともにホトトギスの 同人。

 

春遠からじ

《春遠からじ》

 

||||| 今月の新着 |||||

風景  継ぎ接ぎ夜着

木村忠太《風景》15号            藍染襤褸 継ぎ接ぎ夜着

 

||||| 香港紀行 |||||

 

11月24─25日に香港で行われたクリスティーズ秋季オークション・アジア20世紀美術と

コンテンポラリアートへ行ってきました。

今回が4回目な のでおかげさまで随分となれました。

丁度、上海蟹の季節でもあり美味しいものも楽しんで参りました。

加えて年代物の紹興酒を飲めればもっと楽しかったので しょうが、そこは我慢致しました。

今回、日本近代美術の中から唯一出品された児島善三郎の作品は「シュミーズの女」60号と

「ダリヤ」20号です。

 

人物画 が24日のイブニングセール、ダリヤが翌25日のデイセール出品です。

尖閣諸島問題や中国経済の下振れなどの影響がどのように響いてくるのか心配でした が、

経済面での影響のほうが大きく、やはりお客さんの出足、落札価格などに変化があったみたいです。

他のセールの流れからか中国本土からは大勢が参加して いたようです。
相変わらず中国、インドネシアの作家の作品が強いですが、

5月に比べると物にもよりますが半値から七掛けといったところです。

ただ、目の前で普通のオジサ ンやオバサン、オニイサン、オネエサンが

5、6千万円から2、3億円の絵をセリ落としているのを見るとハッキリ言ってヤンナッチャイます。

 

善三郎作品も人物はコンディションが今一つだったせいもあり手数料込で邦貨換算約1100万円、

ダリヤが1000万円ちょっとで、共に伸びが鈍かったよう に思えます。

やはり日本からのビッドはなかったようです。

とはいえ、今の日本の美術界、市場を見るかぎり、

海外市場での実績を積み重ねて行くしかないと改 めて実感いたしました。

前回出品の菊の絵を買われた香港のコレクターにもお目に掛かれたり短いながら充実した旅になりました。
善三郎の没後50年に当たる記念の年でしたが、

念願の画集を刊行できたことと、

福岡と北海道で計三回の関係展が開催されたことなど誠に充実した一年になり ました。

皆様のご厚意の賜物と感謝いたしております。

商売の方はさっぱりでしたが、欲張ってはいけないと自省しています。

皆様方が良い年をお迎えくだされ ますようお祈り申し上げます。

 

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また、海外のオークションへのご出品やご購入のお手伝いも致して居ります。

 

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