• 歳時記

絵と布の画廊歳時記 13年3・4月合併号

窓あけて見ゆる限りの春惜しむ
──高田蝶衣

 

野邊之春

児島善三郎《野邊之春》10号F 1948年頃 福岡市法人蔵

 

窓開けてではないが、アトリエから母屋への渡り廊下のような

屋根つきの池と池を隔てるコンクリート打ちの通路から東へと一歩踏み出すと

この絵の風景 が眼前に開けていた。

何度も何度も描いてきた見慣れた風景だが、この日は余りの陽気の良さに、

いつもとは一寸違った気持ちで接してしまった。

時間が止まっ たような春閑とでもいう空気の停滞に、

普段の闘争心を忘れて眼前の風景に素直に見とれてしまった。

 

と本人だったらいうのかなというぐらい平和な絵です。

 

こ んな美しい風景がつい60年前の国分寺にはあったのです。

句の表現と同じに見ゆる限りを表すために

普段より引いた感じで広角レンズを使ったような構図を用 いています。

その結果、分割線のために置かれた高い松の木がほとんど画面の中に入ってしまいました。

そうなると当然のことですが見えるもののディテールは 小さくなり、

その形を個性化したり誇張したりすることは難しくなります。

このように絵画の世界でも対象との距離感や画面の大きさそのものは大きな意味を持 ちます。

極端なことを言えば写真の拡大と同じように具象絵画の部分をどんどん拡大して行けば

物の形はある段階で消失し抽象的色面に還り空間の奥行きは消失 します。

逆に、目線を引けば画面は写実的になるし小さい画面で広い世界を表すことが出来るということだと思います。

 

だいぶ横道にそれてしまいましたが、

本 人は誠に気持ち良く爽快にこの絵を仕上げています。

秋晴れの日にも、雪の日も、夏の炎天の中でも定点観測的にこの場所を描いています。
その時々に変えるアングルや距離の工夫が赤瀬川原平さんが画集の序文の中で指摘された

「空気のリアリズム」たる所以のように思えます。

プランタン、プリマ ヴェーラ、春に理屈は似合いませんね。ごめんなさい。

掲載した句の作者高田蝶衣は兵庫県に明治19年に生まれ、瀬戸内の自然を大きくリアルにとらえた俳人 です。

 

||||| 春 |||||

 

御ひな祭りのちらしずし

 

孫は二人とも男の子なのでひな祭りは関係ないのですが、

女房や娘もいることだし毎年作っている恒例の春のちらしずしを3月3日の日曜日に作りまし た。

なんたって手間がかかるのは戻したり刻んだりが沢山あるからです。

先ず手持ちの材料から考えたのが、

香港で買ってきた干しエビとホタテの貝柱に姫雪 茸、乾燥湯葉、でっかい白きくらげ、

それに岩手のおじちゃんが送ってくれた岩魚の焼き枯らし、あとは乾物の椎茸にかんぴょうで、

それらを前の晩から水に戻 します。

それと今回は青味の魚を何にしようかと思っていましたが買い出しにいったら

サバしかないのでシメサバに決定。

三枚におろしてから塩をてんこ盛りし て3時間そのあと塩抜きしてから20分ほど酢〆、

ここまでは前日の仕事です。

 

翌日は朝から刻みもの、

カヤクとして使うのは人参、タケノコ、こんにゃく、レ ンコン、白きくらげ、戻した湯葉、

かんぴょうの半分、姫雪茸。

姫雪茸は向こうではアガリスクト書いてありましたから薬効もあるのかもしれません、

香りはポ ルチーニ茸に近いのでスパゲッティーにもグーです。

こいつらを刻むあいだに椎茸の甘露煮とお正月に作る酢バスを煎り付け、

筍の半分とかんぴょうを炊いて、

戻した干しエビの背ワタを取り荒くたたいてからミルミキサーでジャイーン。

刺身用に買った鯛の一部とでデンブを作ります。

次に絹サヤや炊いた椎茸、薄焼き 卵を錦糸卵にするためにひたすら刻みます。

そうこうする間にすし飯の支度に入ります、

今回は極めて異例なことですが戻した岩魚の炊き込みご飯を酢飯に使う ことにしました、

炊き上がった後の岩魚は骨やひれを除き、やはり敲いて荒いデンブのようにして使います。

戻した貝柱はカヤクの中に戻し汁と一緒に入れま す。

さあ、ご飯も炊けて合わせ酢とカヤクを素早く混ぜ込み、

仕上がった具材を散らし、その上に、き

つく〆まったサバの薄切りと絹サヤ、錦糸卵をトッピング して出来上がり。

あとは戴くときに海苔と紅生姜を各自がのせます。

15種類以上の味が複雑にまじりあい何とも言えないアンサンブルです。

木曽の小椋さんが 作った一抱えもある木地漆の鉢に盛りました。

最初に蛤の潮仕立てのお椀を頂き、お造りは鯛の白ごまあえ、菜の花のおひたしの後に本命ちらしずし、

鯛のあら の赤だし椀と疲れも忘れ満腹となりました。

写真を撮っていなかったのが残念でした。

 

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白樺新緑と湖

児島善三郎《白樺新緑と湖(志賀高原)》60歳作作

 

自筆裏書には60歳となっているのですが、

油彩画総攬(カタログレゾネ)では画風の推移からみて1951─1953年としました。
国分寺から荻窪への移行期の作品です。

 

編み網リュック

編み網リュック

 

何を入れて歩いたのでしょう、山菜でしょうか。今の若い人が喜びそうですね。

 

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