• 歳時記

絵と布の画廊歳時記5月6月合併号

手の薔薇に蜂来れば我王の如し  中村草田男

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児島善三郎作 薔薇 6号 1957年

 

 

久しぶりに花の絵を取り上げることにしました。最近、縁あって手元に来た作品です。

64歳作ですが、この年は他の作品を見ても、体力、気力共に調子が良かったように思えます。

 

花の絵はダリアやアネモネ、虞美人草、ミモザ、盛花などなど、たくさん手がけていますが、

やはり薔薇の花を描いた作品の人気が高いようです。

花を生けた壺も南京赤絵や宋白磁、マジョリカ、ペルシャ壺、高麗青磁、李朝白磁、古染付、磁州窯など。

またテーブルに敷かれた裂もキリムに、更紗、様々なストライプや刺繍裂など、

それらの要素が複雑に組み合わされて善三郎の瓶花の絵が生み出されてきました。

花の絵は初期からぽちぽちとは見られますが、

国分寺へアトリエを移してからが多いように思います。

 

風景と格闘して疲れ果てた時や雨の日の手慰みのように、花を描いたと自伝などにはあります。

しかし、ダリアや菊、牡丹、虞美人草など路地に咲いてる花も描いていますので、

季節に追いかけられるような時もあったことでしょう。

花の描き方も昭和10年代中頃までのものは恰もブロンズで作った彫像のように、

武骨で重々しく、華やかさや、しなやかさとは縁遠い感じがします。

風景でも同じことが言えますが、対象を力でねじ伏せたり、

バックドロップをかけたり、うっちゃったりと力技で絵に仕立て上げていたところがあります。

 

それが、昭和15年頃から急に「素直に描く」「個性の没却」というようなことを言い出して、

見る側からすると、安心して眺められる穏やかで、優しい絵が出てくるようになりました。

花の絵でも菊の絵などは花びら一枚一枚を丁寧に描くような写実的スタイルもあります。

またその頃から「久遠の生命の把握」「悠久なるものへの憧憬」など、

すべての生命がもつ普遍性や永遠性を描き切ろうとする決意が強くなります。

以前にも何度か、取り上げましたが、

「写実とは、久遠の生命の把握です。久遠の生命の把握とは、概念を去った、有りの儘の姿の誇張です。

芸術家のみが把握し得る想念の世界です。」

こういう境地に至って、風景も花の絵も生命感に満ち溢れ、キャンバスの中と外界が一つとなり、

生命の実相が絵の中の鏡に映し出されるようになったのではないでしょうか。

 

掲載の草田男の句は分かりにくい句ですが、五郎丸選手のルーティーンのように、

手でバラの形を作ったのか、ただ持っていた薔薇に蜂が来たのか、どちらでしょうか。

それとも、昔の偉大な王の逸話か故事とかがあるのでしょうか。

解らないながら、善三郎の薔薇の絵にも蜂が来てくれたら、

襖絵から虎が出てきたみたいで面白いなと思って並べて置いてみました。

冗談を言いたくなるくらい、この絵の存在感、立体感はすごいです。

敷物と白磁壺との距離感、たっぷり水が入った壺の重量感、正面を向いた大輪の花弁のむくむく感、

薄くレッドを流したバックがずっしりと受け止めています。

まるで3D絵画のようです。

6号の小品ですが、久々の名品です。

 

 

❇︎ 福井良之助没後30年記念回顧展 ❇︎

 

銀座洋協ホールにて7月5日から9日まで期間は短いですが敬愛する福井先生の回顧展を開きます。

多くの方々のご協力を得て実現することになりました。

叔父徹郎の美校の同級生だったことから早くから、叔父の日本橋画廊で孔版画や油彩画の個展を重ね、

人気作家への階段を登りつめました。

時まさに高度成長期と重なり、雪景色や舞妓図で人気を博しまし

たが、善三郎と同じく無冠のまま63歳であの世へ旅立ちました。

一時、多作の時期もありましたが、常に対象物のもつ存在と時間の関係を深く見つめ続け、

独自の画風を完成させました。

日本の戦後美術を語る上で欠くことのできない重要な作家です。

時代を追って、その画業を辿れる貴重な機会になると確信しています。

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福井良之助 パンジー 10号M 1966年

 

福井良之助没後30年記念回顧展「静謐なる時のレアリテ」
会期:2016年7月5日(火)〜9日(土)11:00〜18:00
会場:銀座洋協ホール
中央区銀座6丁目3−2 ギャラリーセンタービル 6F
03-3571-3402
主催:福井良之助没後30年記念展実行委員会
企画:兒嶋画廊

新着コーナー

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草間彌生 命 A.B. h. 45.5 cm 1988年

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熊谷守一 小流れに
旧友、青木繁の和歌を書く。

その晩年、佐賀県内を漂泊していた時の歌、

筆をもつべき手がつり竿の上に重ねられている。

青木が我が身を詠嘆する歌を守一が揮毫。

 

 

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百徳着物

 

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ボロ野良着

 

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